※本記事の写真はすべて筆者が現地で撮影したものです
- 「倹約令」から生まれた、正反対の見た目を持つ2つの郷土料理の歴史背景
- 福山の「衣笠」と「魚勝」で実食して分かった、それぞれの「うずみ」の特徴と違い
- 「天領」の地 倉敷の老舗「大正亭」で味わう「岡山ばら寿司」の魅力と体験
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広島県の東側に位置する福山には少し変わった歴史背景を持つ郷土料理があります。その名も「うずみ」です。一見すると真っ白なご飯だけのとても質素な見た目ですが贅沢な料理です。
お隣の岡山県の倉敷には、見た目が華やかな「岡山ばら寿司」という郷土料理があり、こちらも独特の歴史背景を持つ郷土料理です。こちらは一目見て贅沢さを感じる、見た目がとても華やかな料理です。
これらの、ちょっと質素な感じの料理と、ぱっと見で豪華さが伝わる料理。まったく異なる見た目をしている2つの郷土料理は、どちらも江戸時代の「倹約令」から生まれた料理とされています。
同じきっかけなのに正反対のビジュアルを持つことになった不思議な郷土料理を、福山と倉敷でいくつか食べ歩いたので、その歴史的背景を含めてまとめました。

「うずみ」と「ばら寿司」
「うずみ」とは、具材をご飯の下に「埋める(うずめる)」ことからその名がついた料理です。
「うずみ」を注文して運ばれてくるのは、器に入ったご飯だけに見えます。「具材がないのでは?」と思ってしまいますが、ごはんの中から様々な具材が出てきます。それを出汁でお茶漬け風にしていただきます。

一方の「ばら寿司」はご飯の上に様々な魚介をのせたいわゆるちらし寿司です。
「ばら寿司」を注文すると、いろどりも鮮やかで、見た目が華やかな一皿が運ばれてきます。具材の種類も量も多くて、より目立たせるような盛り付け方がされているので自然とテンションが上がります。

この見た目が全く異なる料理が出来上がった経緯には、歴史的に興味深い「庶民の知恵」が詰まっています。それは両方とも「倹約令」という贅沢を禁止する決まりから生まれたものなのです。
「倹約令」によって定義された「贅沢」は、禁止事項でありルールです。このルールを破ることなくそれぞれが独自に解釈しようとして「贅沢」な料理にしています。
一方は贅沢を隠すという選択、もう一方は1品だから違反していないという贅沢をまとめる選択をしています。
これを知ったときにはちょっと感動しました。江戸時代には罰金や家財没収などがあり、リスクがあったはずです。しかも連座制があったので個人やその家族だけではなく近隣の人も巻き込んでしまう危険もあったはず。それなのに、そのリスクを負ってまで贅沢に食べたかったの?!というワクワクもありました。
そこまでして食べたいと願った2つの料理、「うずみ」と「ばら寿司」をどうしても食べてみたくなりました笑。

始まりは「一汁一菜」の命令
江戸時代、福山藩(広島)と岡山藩(岡山)では、それぞれ財政難や風紀統制を理由に、領民に対して「贅沢を禁止し、質素な食事にせよ」という「倹約令」が出されました。
特に岡山藩主・池田光政が命じた「食事は一汁一菜(お味噌汁とおかず1品)とする」というルールは有名です。
これに対して、豊かな山海の幸に恵まれた瀬戸内のひとたちは、アイデアで対抗しました。おそらくいろいろと考え抜いた挙句に覚悟を決めたのではないかと思います。
- 福山(うずみ): 「具材をご飯の下に“埋めて(うずめて)”隠せば、見た目はただの汁かけご飯(一汁)に見えるだろう」
- 岡山(ばら寿司): 「たくさんの具材をご飯に混ぜ込んだり乗せたりしても、器が一つなら“一菜(一品)”と言い張れるだろう」
※当時の公式な古文書に「これが理由で料理が生まれた」とはっきり書かれているわけではありませんが、厳しい生活の中で生まれた庶民の知恵とユーモアが、現代まで伝承として語り継がれています。
同じ質素倹約という制約に対して、この発想の違いがでてくることに、人間の食への要求の大きさを感じます。

「うずみ」と「ばら寿司」それぞれの特徴
2つの郷土料理の特徴を比較しました。
| 比較項目 | 福山のうずみ | ばら寿司 |
| お上の制限への対策 | ご飯の下に「隠す」 | 一つの器に「まとめる」 |
| ファーストインプレッション | 「ただの白米?」という困惑と驚き | 「なんて華やかなんだ!」という感動 |
| 主な食材 | エビ、鯛、穴子、里芋、根菜など | サワラ、穴子、エビ、シャコ、錦糸卵、山菜など |
| 味わいのスタイル | 温かいお出汁をかけて、サラッといただく | 酢締めの魚や甘辛い具材を、酢飯とともに味わう |

「うずみ」レポート
尾道と倉敷という2つの有名な観光地に挟まれて通り過ぎてしまいがちですが、福山には福山城以外にも魅力があります。それが今回の郷土料理「うずみ」だと思います。

「うずみ」の経緯をまとめると
- 「倹約はある程度したい、お殿様のいうことを聞きたい」という気持ち
- 「鞆の浦(とものうら)名物の鯛など、たまには贅沢したい」という気持ち
深刻でありながら滑稽さがありますが、隠しているのを見つかったらどうなるかを考えると非常にリスクが高いです。そのリスクを負ってまで生み出した料理です。その料理が今でもずっと続いてこの地方にだけ残っています。
結局、尾道(としまなみ海道)と倉敷の中間地点という意味で3泊宿泊した福山で、3日間のうち晩御飯の2食に「うずみ」を食べることになりました。この地方にだけ伝わる独特の食文化があることに驚きましたし、地方色を特集するテレビ番組でもいまだに取り上げられていないのでは?と思います。
【鞆の浦】季節料理 衣笠:とろろと鯛の漬けが調和する「鯛うずみ」
1店舗目は、福山の観光名所である鞆の浦(鞆町)にお店を構える「季節料理 衣笠(きぬがさ)」です。
季節料理 衣笠:お店の場所と特徴
こちらの「季節料理 衣笠」には福山市内のに宿泊していたので、レンタカーで行きました。近くにバス停があり、バスは福山駅からは1時間に2~3本あります。

- 場所: 広島県福山市鞆町鞆150-12(JR福山駅から鞆鉄バスで約30分、「鞆の浦」バス停から徒歩圏内)
- 価格: 鯛うずみ 1,500円
衣笠のうずみは、鞆の浦名物の「鯛」を使っているのと「とろろ」が特徴です。
店構えは歴史と伝統を感じさせるもので、敷居が高そうな雰囲気があります。しかしそんなことはなくて、お店の方は物腰が柔らかくとても親切です。食べ方の説明もしてくれます。

ご飯の上には「とろろ」がかかっており、中央に刻んだ青ジソが添えられています。とろろがかかったごはんの中からは、特製のタレに漬け込まれた鯛の身が埋められています。
鯛の身をある程度味わった後は、各種薬味が付いてきますので、それを乗せて和風の出汁をかけて、お茶漬けのようにいただきます。シンプルなお茶漬けではなく、とろろと出汁が混ざり合ってより優しい料理になります。
店内は、落ち着いた和の空間で、店の前に大型のホテルがあるからなのかインバウンド需要も多そうでした。
【福山駅前】割烹 魚勝:瀬戸内の海の幸を詰め込んだ老舗の「うずみ」
2店目は、福山駅のすぐ近く、昭和の風情が残る商店街の一角にある「割烹 魚勝(うおかつ)」です。
割烹 魚勝:お店の場所と特徴
「カンデオホテルズ 福山」に滞在していたこともあり、ホテルのハッピーアワーで一通り飲んだ後に少し遅めの時間に食べに行きました。この「カンデオホテルズ 福山」のハッピーアワーは移動の過程をワクワクをもたらします!
遅い時間だったため電話をして、今からでも「うずみ」を食べることが可能かを確認してから行きました。電話をしていたため、威勢のいい大将が「うずみ」を用意してくれていました。ありがとうございます!

- 場所: 広島県福山市元町12-13(JR福山駅南口から徒歩約3分)
- 価格: うずみ 1,300円
駅からすぐ近くの好立地にある魚勝は、割烹となっていますが、お寿司屋さん風です。お店のスタッフも元気があって親しみを感じました。2階には個室の座敷もあるようです。
こちらのうずみは、エビや鯛、穴子といった海の幸に加え、レンコンやゴボウなどの根菜がご飯の下に盛りだくさんに隠されています。

あっさりとした出汁をかけてお茶漬け方式で食べるスタイルで、具材それぞれの食感と出汁がよく合います。とろろはかかっていませんが、その分ご飯のボリュームが多いです。また薬味には梅干しがあり、これがアクセントになり、出汁のお茶漬けにマッチしました。
「衣笠」と「魚勝」2店の違い
どちらの店舗も個性的でおいしかったです。旅のルートやお店の雰囲気、料理の好みに合わせて選べるよう、特徴を表にまとめました。
| 比較項目 | 季節料理 衣笠(鞆の浦) | 割烹 魚勝(福山駅前) |
| 主な具材 | 鯛の漬け、とろろ、青ジソ | エビ、鯛、穴子、レンコン、ゴボウなど |
| 味の特徴 | とろろのまろやかさと鯛の旨味が効いた上品な味 | 具だくさんで、魚介と根菜の出汁が楽しめる味 |
| お店の雰囲気 | 港町の風情に馴染む、落ち着いた和風料亭の雰囲気 | 駅前の商店街にある、活気のある老舗割烹 |
| 立地(アクセス) | 福山駅からバスで30分(鞆の浦観光とセット) | 福山駅から徒歩3分(新幹線の待ち時間でも可能) |

どちらのお店がおすすめ?
どちらも特徴的なうずみなので、どちらかがおススメというよりはどちらも食べてみてほしいです。という前提で。
- 「季節料理 衣笠」が向いている人:鞆の浦名物の鯛と一緒に少し変わったうずみを体験したい方。落ち着いた店内で、とろろと一緒にいただく新書簡を楽しみたい方。
- 「割烹 魚勝」が向いている人:新幹線の乗車前後や、福山城観光の合間に駅近くで食べたい方。活気ある店内でボリュームがあって定番の具だくさんなうずみをしっかり味わいたい方。
先に福山城を見学してからうずみを食べると、「このお城の殿様が出した倹約令から生まれた料理かもしれないんだなぁ」と、歴史のつながりをより深く実感できると思います。
福山城→うずみ→福山城と回ると、うずみを食べた後は城や城主の見え方が変わりました。庶民の贅沢を一定程度許してくれた優しい城主だったのかもしれない、という気持ちになりました。

「ばら寿司」レポート
倉敷は有名観光地で、蔵屋敷や古い街並みを残す歴史地区です。古い町並みを生かしつつ、モダンなアートが融合しています。

かつて江戸時代に倉敷は幕府直轄の「天領」として栄えた地でもありました。「天領」というのは幕府の直轄地で、藩のトップは将軍家で、年貢などは藩ではなく幕府に入る、そんな重要な土地です。
この背景からいろいろとツッコミたくなります。「天領」という特別な地なのに
- 「一汁一菜」というルールを1品だからという屁理屈?で乗り切れると思ってる?
- そんなの見つかったら逆ギレされるよ?
- 一皿だから一品ね、という抜け穴はすぐに封じられるでしょ?
- ふざけてると思われて余計に厳しいルールになっちゃうよ?
まぁ私ならこんなツッコミをいれたくなります笑。でもやっぱり素敵ですねー。ここまでして食べたかった瀬戸内海の恵み、食べたくなりませんか?

【倉敷】食事処 大正亭:一皿に瀬戸内の恵みを凝縮した「岡山ばら寿司」の老舗

福山から倉敷へ移動すると、美観地区の美しい白壁の町並みがあります。そんな倉敷で「ばら寿司」を食べたのは、歴史ある建物で郷土料理を提供する「大正亭(たいしょうてい)」です。
お店の場所と特徴
お店は倉敷美観地区のすぐ近くにあり、観光の途中にルートへ組み込みやすい絶好のロケーションです。
- 場所: 岡山県倉敷市中央2丁目1-1(倉敷美観地区・新渓園のすぐ近く)
- 価格帯: 岡山ばら寿司 1,850円
お店のおかみさんはとても話好きなようで、いろいろ教えてくれました。黄ニラや「ままかり寿司」が推しのようで、丁寧に説明してくれます。

大正亭というお店の雰囲気も「ばら寿司」の歴史的経緯を引き立てるのに良いんですよねぇ。落ち着いて穏やかな雰囲気なのに、なんとか贅沢をしようと試みたであろう料理が出てくるという。。。
あと、入口の自動ドアが爆音です。入るタイミングでびっくりしますし、中にいてもびっくりします。
大正亭の「岡山ばら寿司」の特徴

大正亭の「岡山ばら寿司」は、福山の「うずみ」とは対照的に、運ばれてきた瞬間からその色彩の豊かさに気分が上がります。(「うずみ」が気分が上がらないという意味ではありません。「うずみ」は贅沢が隠されているようで隠れ切れておらず、贅沢さがにじみ出ています。そのため、隠れてないよね、これ笑!という意味でテンションが上がります)
表面にきれいに並べられているのは、瀬戸内を代表する魚介類です。穴子、エビ、中央にインパクトがあるシャコ、そしてままかりや岡山ならではの食材であるモガイ(藻貝)などです。さらに錦糸卵や、じんわり味が染みた煮物類、シャキシャキとした酢蓮根などが配置されています。
「一汁一菜」という厳しいルールを守るために、すべての贅沢をこの一つの器に詰め込んだという、当時の人々のこだわりが伝わってくる料理です。

まとめ:歴史背景を郷土料理で知る面白さ

福山の「うずみ」と倉敷の「ばら寿司」。
「うずみ」は、その控えめな見た目と、中に隠された贅沢さのギャップこそが、この料理の最大の魅力です。
そして「ばら寿司」は華やかな見た目を前面に出して、贅沢な気分のままいただけるというのが魅力です。

どちらも江戸時代の厳しい暮らしや制限というシリアスな背景があって生まれた料理です。そしてなんとかしておいしい料理を食べたいと思った人たちは、同じ背景であっても全く正反対の解釈を生み出しました。そこにあるのは共通の「どうやって美味しく食べるか」と考えて工夫したポジティブなエネルギーです。
美味しいものを食べるだけでなく、その形になった理由を知ることで、食事はさらに深く、面白いものになります。この2つの街で、倹約と食へのこだわりを、別々の方向で実現した料理を食べてみてください。



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